マニュアルは、一度作ったら終わりではなく、更新や修正が継続的に必要となる文書です。にもかかわらず、気づけば想定以上の時間とリソースが費やされ、「もっと効率的に作れないのか」と頭を抱える担当者が少なくありません。ここでは、なぜマニュアル作成の工数が膨らみがちなのか、その代表的な原因と、意外と見落とされがちなコストについて解説します。
マニュアルを作るうえでは、まず「どの範囲を、どのくらいの完成度で、誰が使うために作成するのか」を明確にしなければなりません。しかし、忙しさにかまけて「とりあえず作り始める」ケースが多いと、後から内容が膨れ上がったり、必要性の低いページを大量に作ってしまったりと、計画性がないためにムダな工数が加速します。
さらに、マニュアル作成が特定の担当者の経験値やノウハウに依存していると、その担当者の都合や判断基準によって内容の質や分量が変わりやすくなります。ほかのメンバーが編集や更新をしにくい状態(属人化)が続くと、工数増大に歯止めがかからないばかりか、担当者の異動や退職時にノウハウが引き継がれず、ゼロから作り直しという最悪の事態を招く可能性もあるのです。
「まずは叩き台として素早くマニュアルを作る」という考え方は、スピード重視の観点では悪くありません。しかし、完成度の低い状態でリリースしてしまうと、後から大幅な修正が必要になったり、内容が不十分なためにユーザーから多数の問い合わせが寄せられたりするリスクが高まります。
問い合わせ対応は日常業務に直結するため、「マニュアルに書いてあるはずのこと」を一つひとつ回答しなければならない、あるいはマニュアルの該当箇所を修正し直すといった作業が頻繁に発生し、結果的にマニュアルの改訂サイクルが増えていきます。こうした“負のループ”に陥ると、いつまでたっても工数削減は実現できません。
グローバル展開を視野に入れている製品やサービス、または多国籍のメンバーが利用する社内システムなどでは、多言語マニュアルの整備が必要になるケースがあります。英語・中国語・韓国語など、言語の種類が増えれば増えるほど、翻訳作業とそれに伴うレビューが膨大な負荷となってのしかかります。
特に、単純な文章翻訳だけでなく、スクリーンショットや画像内テキストの差し替え、専門用語・固有名詞の整合性チェックなども含めると、その手間は想像以上です。さらに更新が入るたびに各言語版を一斉に調整しなければならず、結果として見えない工数が積み重なっていきます。
前章で紹介したような原因を放置していると、マニュアル作成・更新にかかる時間と手間は増える一方です。しかし、適切な計画と作り方のテクニック、そして管理方法を押さえれば、工数削減は十分に可能となります。ここでは、具体的な7つの手法をピックアップしました。
最初にやるべきは、“誰が読むのか”“何を伝えるのか”を明確にすることです。対象読者のスキルレベルや利用シーンを想定し、「現場に最低限必要な情報を網羅する」ラインをはっきり定義しておきましょう。これにより、過剰な情報量や不要な補足説明を削ぎ落とし、ムダな作業を減らすことができます。
作成の目的や完了基準(ゴール)をチーム内で共有することで、後から「こういう情報も足りないのでは?」といった議論が膨らむリスクを抑え、計画外の改訂を避けやすくなるのです。
膨大な内容を一気に書き込もうとすると、途中で迷走しがちです。まずは章やセクションごとの大まかな骨子を組み立て、「この見出しの下にどんな情報を置くか」を整理するところからスタートしましょう。
完全に仕上がっていなくても、全体構成のたたき台があればチーム内でコメントやフィードバックを集めやすくなります。また、先に骨子を作ることで、後から加筆・修正する際も章構成が崩れにくく、結果的に作業時間を大幅に節約できます。
マニュアルを作るたびに、文書のレイアウトやデザイン、用語説明の形式などを一から考えていては非効率です。あらかじめテンプレートを用意しておくことで、以下のようなメリットが得られます。
特にチームで複数のマニュアルを作成する場合は、テンプレートを使い回すことで大幅に工数を圧縮できます。
マニュアルの文章は「かっこよさ」よりも「シンプルで分かりやすい」ことが重要です。専門用語や長い文章を多用すると、読者が理解しにくくなり、結果的に問い合わせが増えてしまいます。
また、分かりづらい部分があると、後から「言い回しを変える」「追記する」といった修正が発生しがちです。最初から短文・明解なスタイルを心がければ、読者の理解度が高まり、追加修正や問い合わせ対応の工数を減らせます。
言葉だけで説明すると複雑になりがちな手順や操作方法は、図解やスクリーンショット、あるいは短い動画クリップなどを活用して示すと、読者の理解が一気に深まります。
特に工程が多い操作手順や複雑な構成図は、“百聞は一見にしかず”という言葉どおり、視覚的な情報があると一目で流れを把握できるため、文字数を大幅に削減可能です。結果的にライティングの手間が減るだけでなく、読む側の満足度も高まり、問い合わせ対応や修正の回数を抑えやすくなります。
「どこに最新のマニュアルがあるか分からない」「どのファイルが最新版なのか不明」――こういった混乱は、担当者の“探す”時間を増やすだけでなく、誤ったファイルを参照して手戻りを引き起こすリスクも高くなります。
文書名やバージョンの付け方、保存場所などをチームで統一し、最新データを一目で判断できる仕組みを整えましょう。これにより「探す工数」を大幅に減らせるだけでなく、更新漏れや重複作業の防止にもつながります。
個人で作成を進めると、自分では気づきにくいミスや不十分な点を見落としがちです。作成途中でも、第三者にレビューしてもらうことで、初期段階で問題点を発見できます。
レビューを効率化するためには、レビュー専用のチェックリストを作成する、注目してほしい章や疑問点をコメントで明示するなどの工夫が有効です。手戻りを未然に防ぎ、作り直しのリスクを低減することが、トータル工数の削減につながります。
ここまで紹介したテクニックを用いれば、WordやExcelなど既存ツールのままでも一定の工数削減は実現できます。しかし、マニュアルに求められる要件が複雑化し、多人数・多言語対応が進む今の時代、従来の方法にはどうしても“限界”がつきまといます。そこで注目されているのが、マニュアル作成専用のクラウドツールやDTPソフトです。専用ツールを活用することで、飛躍的な効率化が期待できます。
WordやExcelでのマニュアル作成は、使い慣れている分、つい“当たり前”に利用してしまいがちです。しかし、以下のようなリスクをはらんでいます。
こうした問題が積み重なると、結果的に工数が膨れ上がり、チーム全体の生産性を阻害します。
マニュアル作成専用のツールを導入すると、以下のようなメリットを享受できます。
これらの機能により、従来ツールで悩まされていた「探す時間」や「更新漏れ」「多言語管理の手間」を大幅に削減できます。結果的に、作成~更新サイクルをスピードアップできるため、コア業務へリソースを振り向けやすくなるのです。
マニュアル作成ツールにはさまざまな種類があるため、導入時には自社の課題・要件を明確にしておくことが重要です。たとえば、多言語対応が最優先なら翻訳管理機能を重視する、クラウド上での共同編集が必須ならリアルタイムコラボレーション機能をチェックするといった具合です。
また、ツールのUIやサポート体制、既存システムとの連携性なども、導入後の運用コストを左右するポイントです。無料トライアル期間を利用して操作感を試しながら、本当に使いやすいかどうかを見極めましょう。
マニュアル作成における工数が膨れ上がる主な原因は、計画不足や属人化、多言語対応の煩雑さなどにあります。これらの問題を解決するには、以下のポイントを押さえることが重要です。
さらに、WordやExcelなどの従来ツールでは限界がある部分を、専用ツールを導入することで抜本的に効率化し、多言語対応や共同編集、版管理の手間を大きく削減できる可能性があります。
マニュアル作成がスピーディーかつ安定運用できるようになれば、関係者の負担は軽減され、問い合わせ対応などの付帯業務も減ります。その結果、コア業務や新規プロジェクトの推進にリソースを集中できるようになり、企業全体の生産性向上に大きく寄与するでしょう。
ぜひ今回ご紹介した改善策やツールの活用を検討してみてください。今抱えているマニュアル作成の工数問題を根本的に解決し、より戦略的な業務にフォーカスできる環境を整えていきましょう。
マニュアル関連でありがちな課題に沿って、目的別におすすめのマニュアル作成ツールをまとめました。ツール選定で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
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